SFホラー好きならば「The Thing」

『影が行く』

1938年にジョン・W・キャンベルによって発表されたSF小説ですが、雑誌『アスタウンディング・サイエンスフィクション』の編集長となったのちに、ドン・A・スチュアート名義で同誌に発表しました。

地球に飛来した異星生物と人類が閉鎖空間で繰り広げる対決を緊迫した筆致で描いて、映画化も何十年にも渡って後世に多大な影響を与えることになりました。

登場人物

隊員

  • マクレディ・・・遠征隊の副隊長。気象学者。医学部を卒業したのち気象学に鞍替えした経歴をもっています。
  • ギャリー・・・遠征隊の隊長。血清テストが原因で疑いをかけられます。
  • ブレアー・・・生物学者。研究のために異星生物を解凍するよう主張します。のちに自分以外を怪物と見るようになり、隔離されます。
  • カッパー・・・医師。血清テストを考案しますが失敗。疑いをかけられます。
  • ヴァン・ウォール・・・首席パイロット。隊員たちや氷漬けの異星生物を基地へ運びます。
  • バークレイ・・・機械技師。氷斧で異星生物を掘りあてます。怪物退治用の電撃機を自作します。
  • コナント・・・物理学者。宇宙線の専門家。異星生物の解凍の番をしていたために疑われることになります。
  • ノリス・・・物理学者。異星生物の解凍に強く反対します。
  • キンナー・・・コック。パニックに陥り隔離されて、室内で賛美歌を歌い続けます。
  • ベニング・・・航空整備士。
  • クラーク・・・犬の飼育係。パニックに陥ったキンナーを疎んじます。
  • ポムロイ・・・牛の飼育責任者。
夜眠れなくなる程のホラー

その他

異星生物・・・宇宙船に乗りこんでいた生物。隊員たちに「それ」「けだもの」「怪物」などと呼ばれる。発見された当初は、赤い三つの眼をもち、頭部を青い蛆虫の群れのようなものが取り巻いていた。解凍により、地球生物と同化をはかる。分裂した場合は各部分が自立し、利己的にふるまう。

チャーノーク・・・ハスキー犬。犬ぞりのリーダーを務めた。犬舎に入ってきた怪物に同化される。

本のあらすじ

南極の探検や磁極調査をおこなう大磁極基地(ビッグ・マグネット)には、37人の隊員が暮らしていました。ある時、計器が不可解なほど強い磁力を探知したため、第二磁極遠征隊が編成されて調査へ向かいます。やがて遠征隊は、潜水艦に似た物体が氷に埋もれているのを発見します。それは墜落した宇宙船で、地球に来てから二千万年が経っていると推測されました。

遠征隊は氷を掘るうちに、宇宙船の乗組員らしき生物を見つけます。船から出てすぐに吹雪で迷ったものらしく、遠征隊は氷のブロックごと生物を切り出しました。宇宙船は、発掘に用いたテルミット爆薬が原因で失われてしまいますが、氷漬けの生物は基地へと運ばれました。

生物学者のブレアーは、異星生物を解凍して研究しようとします。ノリスを含め数人は反対しますが、危険はないというブレアーの主張が通ります。解凍は宇宙線観測小屋でおこなわれ、物理学者のコナントが仕事をしながら番を引き受けました。

翌日、ブレアーはコナントに叩き起こされました。コナントが居眠りをしている間に、解凍していた異星生物が消えたというのです。基地を捜索した隊員たちが犬舎でそれを見つけた時には、その姿はハスキー犬と同化しつつありました。ブロートーチや電撃機、そして犬たちの攻撃により怪物は倒され、ブレアーが組織を調べます。彼によれば、怪物には他の生物を消化して細胞を模倣する能力があるとのこと。そして、南極を出るために知恵を持つ生物へと。。。つまり人間になりたがっているというのです。

ブレアーは、怪物を逃がさないように飛行機を破壊したと告げます。さらにブレアーは、コナントがすでに人間ではないと言いはり、隊員たちの間に不安が広がっていきます。危険な状態と見なされたブレアーは倉庫に閉じ込められ、隊員は4人ひと組となるように決められました。マクレディたちは、発掘時の奇妙な体験を思い出し、怪物がテレパシー能力も持っていると推測します。

医師のカッパーは、人間と怪物を区別するために、犬の免疫を用いた血清のテストを始めました。一時はこのテストで問題が解決するかに思われましたが、失敗に終わります。人間の組織と同様の反応が、怪物の組織にも生じていました。このため、テスト用の血液を提供したギャリー隊長とカッパーは怪物ではないかいう疑いをかけられるのでした。

カッパーは平静さを失ってモルヒネを注射され、ギャリーはマクレディに指揮権をゆずりました。隊員たちが猜疑心に包まれる中で、マクレディは怪物を区別しようとするが、決め手がないままに犠牲者が増えていきます。怪物は、あらゆる部分がそれ自体で全体であり、小さな断片でさえ自足できることも明らかになっていきます。やがてマクレディは、ある事件をきっかけに解決策を思いつき、隊員たちを集めます。それは隊員の血液を使ったテストでした。

主な日本語訳

1961年9月号 S-Fマガジン・・・「影が行く」矢野徹訳

1967年11月 早川書房 ハヤカワ・SF・シリーズ・・・『影が行く』矢野徹・川村哲郎訳( 短編集「影が行く」「薄明」「夜」「盲目」「エイシアの物語」を収録)

2000年8月 東京創元社 創元SF文庫・・・『影が行く』中村融編訳(アンソロジー「影が行く」を収録)

彼の評価

デーモン・ナイト(SF作家・編集者)はキャンベルの風貌を「太っていて、ブロンドの髪を逆立たせ、挑発的な睨み方をする人物」と表現しています。「6フィート1インチでタカのような風貌で、一見して怖そうである」とはサム・モスコウィッツの言葉です。アシモフは「背が高く、髪の毛は明るい色で、幅広の顔に薄い唇、常にシガレットホルダーをくわえていた」と書いています。

さらにアシモフはキャンベルについて「話好き、独断的、移り気で高圧的。彼と話をするということは、彼の話を一方的に聞かされるということを意味していた……」と記しています。ナイトもほぼ同様の意見で「キャンベルに捕まると長々と講義を聴かされることになるので、なるべくそういう事態にならないよう避けていた。キャンベルは相手の何倍も話し、特にとんでもないことを言って驚かせるのが好きだった」と述べています。

イギリスの作家で評論家のキングズリー・エイミスはキャンベルについて「社会学的注釈としてこのアスタウンディング誌の編集長は、際立った残忍さを持った人物であり、超能力機械を自ら発明したと思っていたようだ、とだけ付け加えたい」とそっけなく記しています。

SF作家アルフレッド・ベスターは Holiday 誌の編集者であり洗練されたニューヨーカーです。彼はキャンベルを「バートランド・ラッセルとアーネスト・ラザフォードを足して2で割ったような人物」だと想像していました。そして「発狂したような出会い」を果たしたときのことをそれから後に語っていますが、それによるとキャンベルが真っ先に言ったのは、ダイアネティクスの新たな発見によってフロイトはとどめを刺されたということでした。そして、L・ロン・ハバードがノーベル平和賞を受賞するだろうと予言もしました。困惑するベスターに対してキャンベルは「思い出せ。お前の母親がお前を流産しようとしたことを思い出せるはずだ。お前は彼女を常に憎んできただろう」と言ったといいます。ベスターはこれについて「このことで、SF界の大多数が分別の無さを見逃しているという私の個人的意見が補強された」とコメントしています。

キャンベルは1971年、ニュージャージー州マウンテンサイドにて61歳で亡くなりました。アナログ誌で34年間編集長を務め、最後のころには彼が育てた著名な作家の多くはキャンベルの奇抜な個性と風変わりな編集方針についていけずに、ほとんど彼の下に原稿を送らなくなっていました。

アシモフはキャンベルについて「彼の晩年の20年間は、かつて彼がそうであったものの縮み行く影でしかなかった」と結論しています。キャンベルが発掘した中でも最も成功した作家でしかも親友だったハインラインも、最終的にはキャンベルとの親交を絶っています。

灼熱の真夏は恐怖で涼しくなってみようかな

死後の評価

1996年、Science Fiction and Fantasy Hall of Fame に殿堂入りを果たしました。彼の業績を記念して、彼の名をとったジョン・W・キャンベル記念賞 (The John W. Campbell Memorial Award) とジョン・W・キャンベル新人賞 (The John W. Campbell Award) が別々に設けられました。

ゲーム化作品

2003年に遊星からの物体X episodeIIとしてゲーム化されています。これは1982年の映画版の続編的な内容になっています。 プレイヤーがアメリカ陸軍救助隊隊長ブレイクの視点で、味方の隊員と協力してエイリアンを倒していく内容です。 プラットフォームはプレイステーション2、Windows、Xbox。 日本では、2003年2月27日にコナミが発売しました。

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